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ニコライ堂 | 湯島天神 |
三つ目はせりふ。わずか5分の遅れを口汚くとがめた男が、葬儀の後には涙を流して感謝する。妻に先立たれ、それも幼い子どもを残して・・・。男のとまどい、いらだちが一気に噴き出したものだろう。だから余計に「あいづ、今までで一番綺麗でした」というセリフが切なく沁みてくる。思わず涙をこぼしたが、一番後ろの席でよかった。
いろんなことがあって辞めるという主人公に社長は昼食に誘う。フグの白子をチューチュー音を立ててしゃぶりながら言う。「これだってご遺体だよ。生きものが生き物食って生きてる。死ぬ気になれなきゃ喰うしかない。喰うならうまい方がいい。うまいんだよなあ、困ったことに」。社長のなんともうまそうにしゃぶりつく表情ににやにやしながら、「うまいんだよなあ、困ったことに」とすまなそうな表情にしんみりとなってしまう。生きることとはつなぐことなんだなあと感じてしまう。
銭湯のおばさんの葬式の帰り、二人は川原にいる。そして、男が小さくてきれいな石を妻に渡す。「昔さあ、人間が文字を持たなかったくらい大昔ね。自分の気持ちに似た石を探して相手に送ったんだって。もらった方はその石の感触や重さから相手の心を読み解く。・・・・」。男は幼い頃父親と「石文(いしぶみ)」の交換をする。家族を捨てた父親は子どもからもらった石を握りしめて亡くなる。
脚本家の小山は、向田邦子のエッセイで「石文」の話を知ったそうだ。いろんな意味でこの映画の底に流れるものの象徴がこの石文なのだろう。図書館の安永さんに探してもらったら、その向田邦子のエッセイ「男どき女どき」は耶馬溪の図書館にあるという。