091021 われもこう

写真集の中で一番の人気。
日本人の感性を刺激するものがあるのでしょう。
作るのは難しかっただろうと聞くと、そのものの形をしたもの(ペップ)があるからそうでもないと。別な答えを期待していたのですが・・・・・

 われもこうとの出会いは何年前だったか。実物よりも、本の中での出会いが先だった。その奇妙な日本語の響きと、思いを寄せる若者を遠くからせつない思いで見つめていた。その足元にわれもこうが揺れていたと、おばあさんが語る本の中の情景が重なって、まだ見ぬその花への憧れが続いていました。

 この秋、すすきを折りに出かけた林道で、その花に出会いました。人気のない荒れた道の傍らで、ひっそりとさりげなく紅の地味な花を細い茎につけていました。その紅は、燃え立つ炎のような思いを、心の奥底に沈めこめてしまうような暗い紅色。湧き上がる思いをそのつど重ねて、たたみこんでしまうほどに紅が深くなる、おばあさんの想いの色だと思いました。吾木香よりも「吾亦紅」の方が、ずっとこの花らしいと思います。

 “自転車いっぱい花かごにして”という本でしたが、それ以来、渡辺一枝さんは私の大好きな作家の一人になりました。暮らしの中の優しさや悲しさ、満ち足りた幸福、そして、時には阿修羅のような人の心の有り様を野の花や木、風や雲などに映して描くその人の本は、私の中にすーっとしみこんでいき、慰められます。

 “空ゆく雲を追いかけて”“気が向いたら風になって”ーこんな題名を見ただけでも、素敵だなと感じませんか。(89,10,3)